わたしと「昔ながら」。

MY SHIOKARA
STORY Vol.5
「この濃厚な塩⾟は、酒泥棒ですよ」

「この濃厚な塩⾟は、酒泥棒ですよ」

宮城県気仙沼市唐桑町
牡蠣漁師 畠⼭政也さん

⾔わば“海産物のプロ”として⾆の肥えた漁師さんたちは、どんな塩⾟が好きなんだろう?という素朴な疑問がありました。そんな中、牡蠣漁師の畠⼭さんが無類の塩⾟好きと聞きつけて取材を打診。快諾していただき、「昔ながらの濃厚熟成塩⾟」をどのように感じ、どんなふうに召し上がっているのかを伺うことができました。唐桑特産の「もまれ牡蠣」の話と合わせて、どうぞ。

「昔ながら」は、肝の旨さの
濃いところが好きです。

「昔ながらの濃厚熟成塩⾟」は、ずっと⾷べてますね。震災の前からだから10年以上。⼤好きですね。
初めて⾷べた時の印象は、なんと⾔うんですかね、イカの腑(肝)の旨さが良い感じに濃いというか。そういう塩⾟が好きなんですよ。
ここ唐桑にも似た感じの塩⾟を作っている会社が以前はあったんですけど、残念ですが震災で無くなってしまって。だから今は、「昔ながら」⼀択。重宝させてもらってます(笑)。
波座さんの⼯場にある⾃動販売機まで買いに⾏ってます。街の飲⾷店さんに牡蠣を配達することもあるので、その後に買って帰ります。

100年以上続く
牡蠣漁師の五代⽬に。

牡蠣漁は、ひいひいじいさんが始めたと聞いています。うちの屋号は「⼾⽻平(とばひら)」というんですが、私で五代⽬です。そう考えると、うちは牡蠣漁を100年はやってると思いますね。
⼦供の頃は正直、家業を継がなくてもいいかなと思ってたんですけど。中学ぐらいから徐々に「唐桑の漁師たちって、かっけーな」って思うようになって、⾃然と⽔産⾼校に進学しました。
ただ、卒業後はまず船に乗ったんですよ。家の仕事を始めたら、⼈を動かす⽴場になります。働いてもらう⼈たちの気持ちも分かっていなければと思って、⽔産庁の漁業取り締まりの船に8年乗りました。

震災直後の復興の⼿伝いが、
家業を継ぐ決断に。

漁師になったのは、震災後です。⾃分が乗っていた船は当時、尖閣諸島の取り締まりをやっていて、気仙沼には2〜3カ⽉に1度帰ってくるペースだったんですが、気仙沼に帰ってきた⽇がちょうど3⽉11⽇でした。
気仙沼湾が⽕事になり、船も被災しました。でも、船体こそ真っ黒になったもののエンジンは無事だったので船を修理することになり、それが終わるまでの半年間は地元の復興に携わることができました。
その半年が⾃分にとって⼤きな転機になりました。広島から⾃分と歳が変わらないような牡蠣⽣産者の⼈たちが来てくれて、⼀緒に牡蠣を吊るすイカダ作りをしたんですね。
当時は資材は何もないので⽵のイカダでしたが、広島の⼈たちと⼀緒にいくつもイカダを組んで、海に浮かべる。それを3⽇ほどやりましたかね。
「家の仕事やっぺ」と思ったのは、その時だったと思います。

唐桑の「もまれ牡蠣」は、
2年以上育てて特⼤に。

牡蠣は⼀般的には1年から1年半ぐらい育てて出荷しますが、唐桑特産の「もまれ牡蠣」と名付けられた牡蠣は2年半から3年かけて育てます。
牡蠣が⼩さいうちは穏やかな内海で育て、ある程度の⼤きさになると沖に出して荒波にもまれて育つようにしています。
夏場には、栄養が牡蠣にだけ⾏くように微⽣物を死滅させるために70〜75度のお湯に20秒ほど浸ける「温湯処理」もします。真夏に⼤量の牡蠣を処理するので⼤変ですが、⼿間をかけることで牡蠣は殻からこぼれ落ちそうなほど⼤ぶりに育ちます。ふっくらした⾝は、旨みが凝縮された濃厚な味わいです。
10⽉から5⽉くらいまで、この場所で「唐桑番屋」というカキ⼩屋も営業しているので、召し上がりに来ていただけたらうれしいですね。

塩⾟は、ごはんに
たっぷり乗せて⾷べる。

「昔ながら」はだいたい、ごはんに乗せて⾷べます。嫁さんに「乗せ過ぎだよ」と⾔われながら(笑)。
塩⾟が残り少なくなったら、逆に塩⾟にごはんを⼊れて⾷べます(笑)。もったいないですもん。⾃販機には、カップのタイプがありますよね。あのカップに、ごはんを混ぜて⾷べます(笑)

ピザにトッピングしたり、
⾙に乗せて焼いたり。

たまに、ピザにトッピングしてアンチョビみたいな感じでも⾷べてますね。「気仙沼⾵」みたいな気分で(笑)。あれもイケますね。

波座・朝⽥:美味しいですよね。チーズは発酵⾷品だから、同じ発酵⾷品の塩⾟とは相性が良いんですよ。

あと、焼いて⾷べるのもいいですね。ホタテの⾙殻に塩⾟を乗せて焼いて⾷べるんですよ。ホタテの⾙殻はいくらでもあるんで(笑)

朝⽥:⾙に乗せて焼く⾷べ⽅は、⻘森に「⾙焼き」という似た感じの料理がありますね。
私が⼤間の居酒屋さんでいただいたのは、ホタテの⾙殻に塩⾟を乗せて、ごはんも⼊れてリゾットみたいにして直⽕で焼いて⾷べるもので、すごく美味しかったですね。

⻘唐⾟⼦⼊りの塩⾟は、
「酒泥棒」。

「昔ながら」の青唐辛子入りのものは、発売された直後に⾃販機で買って⾷べました。あれも、うまい!
普通の「昔ながら」は、ごはんに乗せて⾷べるのが好きですが、酒のつまみ感が強いのは、⻘唐⾟⼦⼊りのほうかも知れないですね。ピリ⾟な分、酒がすごく進む。「酒泥棒」ですね(笑)。ほんと美味しいですね。

七味が品切れの時は、
待ち遠しかった。

波座さんの塩⾟⽤の七味唐⾟⼦を、親戚からもらったことがあって。もちろん塩⾟にかけてたんですけど、いろんな料理に合うんですよね。かなり使うヘビーユーザーみたいになってしまって。
使い切って⾃動販売機に買いに⾏ったら、売り切れだったんですよ。なかなか⼊らなかったことありましたよね。買えるようになるのが待ち遠しかったです(笑)

朝⽥:それは申し訳ありませんでした。あの七味は、通販サイトか⾃販機でしか買えないんです。
「昔ながら」に合うように特別に調合して作ってもらってるので、⼀般的な七味より値段は⾼いんですけどね。

いや、そのくらいの価値があります。

朝⽥:⻑野に「⼋幡屋礒五郎」さんという⽼舗の七味唐⾟子専⾨店があるんですが、そこへ訪ねていって、お願いして作ってもらったんですよ。
「昔ながら」の濃厚な旨味に合う配合で、塩⾟にかけた時の⾊合いも計算して作ってあります。⾟味は抑えて、⾹りが⽴つようにいろいろ調整してもらって、ようやくあの形になりました。

キムチの塩⾟も絶品。
波座の塩⾟は⽋かせない。

他で絶品なのは、キムチの塩⾟(「ぷりっとぶっといか うま⾟キムチ」)ですね。
キムチ味の商品っていろいろありますけども、あの塩⾟のキムチ味は他の追随を許さない味ですね。
波座さんの塩⾟は⼀⾔で⾔うなら、「⽋かせない存在」です。
おかずがない時でも、これがあれば⼗分なんですよ。常に冷蔵庫に⼊ってます。今朝も⾷べてきました(笑)

取材を終えて。
波座・朝田慶太

⼿間を惜しまず牡蠣を育てる姿勢に、とても共感しました。

畠⼭さん、お忙しい中、牡蠣漁の様⼦まで⾒学させていただき、ありがとうございました!
畠⼭さんが、牡蠣のために時間も⼿間も惜しむことなく、ていねいに取り組まれている姿勢に共感するとともに、とても励まされました。
撮影⽤に持参した予備の塩⾟を差し上げた時、「え、ほんとにいいんですか!」と喜んでくださった、とびっきりの笑顔が忘れられません。今後とも、どうぞよろしくお願いします。

取材を終えて。

復興かき⼩屋 唐桑番屋

被災を乗り越えた牡蠣⽣産者たちが、多くの⽅の⽀援を受けて開業。⽬の前に広がる唐桑湾を眺めながら、⼤ぶりの「もまれ牡蠣」やホタテなどを席にある鉄板で豪快に蒸焼きにして味わうことができる。